男山橋梁と石清水八幡宮ケーブル

1.石清水八幡宮と『徒然草』 Θ『徒然草』第五十二段Θ 2.男山 3.ケーブルのりば 4.ケーブル八幡宮口 5.鋼索線の歴史 6.鋼索線の車両と設備 7.男山橋梁 8.ケーブル八幡宮山上 9.旧男山山上駅から展望台と本殿へ

 

石清水八幡宮楼門(2017年12月)


石清水八幡宮と『徒然草』

吉田兼好は鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての人ですが、日本三大随筆の一つである『徒然草』を著しています。『徒然草』の第五十二段には、仁和寺の僧が石清水八幡宮に参る際、その麓の寺社に参り、山上にある本宮には参らず、長年の思いを果たしたとのエピソードがあり、吉田兼好は何事にも先達が欲しいものだと結んでいます。

 

石清水八幡宮南総門(2017年12月)

 

『徒然草』第五十二段

仁和寺にある法師、年よるまで石清水を拝まざりければ、心憂く覚えて、ある時思ひ立ちて、ただ一人徒歩より詣でけり。極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。さてかたへの人に逢ひて、「年ごろ思ひつること、果たし侍りぬ。聞きしにも過ぎて尊くこそおはしけれ。そも参りたる人ごとに山へのぼりしは、何事かありけむ、ゆかしかりしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」とぞ言ひける。すこしのことにも先達はあらまほしきことなり。

 

その僧が訪れることができなかった石清水八幡宮は、京都府南西部にある男山にあります。

 

男山(2017年12月)


男山

男山は標高142メートルの「鳩ヶ峰」の別称であり、859年(貞観元年)に石清水八幡宮が置かれました。

 

男山(2017年12月)

 

石清水八幡宮日本三大八幡宮の一社に数えられ、宇佐神宮(大分県宇佐市)、筥崎宮(はこざきぐう/福岡県福岡市)または鶴岡八幡宮(神奈川県鎌倉市)と並び称されます。また、その本殿は現存する八幡造において最古のものであり、最大規模を誇ります。

 

石清水八幡宮(2017年12月)

 

男山山麓の八幡(やわた)市は木津川、宇治川、桂川の3川が合流する場所にあり、古くから石清水八幡宮の門前町として栄えてきました。京阪八幡市駅から徒歩3分ほどの場所に参道への入り口となる一ノ鳥居があり、その高さは約9メートル,幅約11メートルにもなります。

 

一ノ鳥居(2017年12月)

一ノ鳥居(2017年11月)

二ノ鳥居(2017年12月)

 

表参道を上り切ると三ノ鳥居があります。

 

参道(2017年12月)

三ノ鳥居(2017年12月)

 

三ノ鳥居をくぐると一ツ石があります。

 

一ツ石(2017年12月)

 

さらには、参道の一部分が重森三玲(しげもりみれい)による「鳩峯寮の庭」という石庭となっています。重森三玲昭和時代の作庭家であり、日本庭園史の研究家です。1917年(大正6年)に画家の道を志しますが、その後、独学で日本庭園について学び、全国の庭園の調査を重ねながら、日本庭園史の研究家として大きな功績を残しました。重森三玲による代表的庭園としては、東福寺方丈庭園、光明院波心庭、岸和田城八陣の庭、北野美術館庭園、重森三玲庭園、松尾大社庭園などがあります。

 

鳩峯寮の庭(2017年12月)


ケーブルのりば

男山へ登るには参道を歩いて行く他、京阪八幡市駅で下車してケーブルカーに乗り換えて行くこともできます。このケーブルカーは通称「男山ケーブル」ですが、正式名称は「京阪電気鉄道鋼索線」といいます。なお、京阪電気鉄道は2019年(令和元年)にその通称を男山ケーブルから石清水八幡宮参道ケーブル(略称「参道ケーブル」)へと改称しています。

 

ケーブルのりば(2019年8月)

 

ケーブルのりばは八幡市駅に隣接していますが、いったん八幡市駅の改札口を出てからの乗車となります。写真の様子を見ると、ケーブルのりば付近は閑散としていますが、年間のケーブル利用者の50%が1月に集中しており、石清水八幡宮への初詣客によるものであることがわかります。

 

繁忙期用ケーブル駅へつながる臨時出口(2017年12月)

夏のケーブルのりば(2019年8月)

秋のケーブルのりば(2017年11月)

 

鋼索線ではICカードを使用できませんので、ケーブルのりばの券売機で切符を購入します。

 

往復切符「かえり」(2019年8月)

 

往復切符を購入した場合は、自動改札機に「いきの切符」を投入(切符は出てきません)して乗車します。山上駅には自動改札機はありませんので、八幡市駅で降車する際に自動改札機に「かえりの切符」を投入します。

 

八幡市駅の改札口(2019年8月)


ケーブル八幡宮口駅

ケーブル八幡宮口駅は1910年(明治43年)の京阪本線開通と同時に八幡駅として開業しています。八幡駅はその後、1939年(昭和14年)に石清水八幡宮前駅、1948年(昭和23年)に八幡町駅、1977年(昭和52年)に八幡市駅と駅名変更しています。さらに2019年(令和元年)にケーブル八幡宮口駅に変更しました。

 

ホームより垣間見るケーブル駅(2017年11月)

旧八幡市駅駅名標(2017年11月)

出町柳方面行きホームからの風景(2017年11月)


鋼索線の歴史

鋼索線はもともと、1926年(大正15年)に男山索道が八幡口(現在のケーブル八幡宮口)~男山(現在のケーブル八幡宮山上)間を開通させたのがはじまりとなります。

 

男山橋梁(2017年12月)

 

男山索道は1928年(昭和3年)に男山鉄道と社名変更しています。

 

男山橋梁(2017年12月)

 

1929年(昭和4年)には京阪電気鉄道がこの株式を買収して子会社としますが、1944年(昭和19年)に戦争による資材供出のため解散となってしまいました。

 

旧八幡市駅に停車する京阪特急色の車両(2017年11月)

 

その後、1955年(昭和30年)に京阪電気鉄道が免許を取得してこれを復活し、男山(現在のケーブル八幡宮口)~八幡宮(現在のケーブル八幡宮山上)間を再開しました。そして現在に至りますが、今となっては京阪電気鉄道唯一の狭軌路線(1,067ミリ)となっています。

 

リニューアルしたケーブル車両「あかね」(2019年8月)

 

先に京阪電気鉄道はこの鋼索線の通称を「男山ケーブル」から「石清水八幡宮参道ケーブル」に変更したと書きましたが、これに合わせて駅名も変更され、鋼索線の八幡市駅をケーブル八幡宮口駅、男山山上駅をケーブル八幡宮山上駅としました。

 

ケーブルカーの車内案内(2017年12月)


鋼索線の車両と設備

初代の車両(1号・2号)京阪電気鉄道鋼索線を復活させた1955年(昭和19年)に新造された車両でした。その車体色は緑色の通勤車色でしたが、1968年(昭和43年)に特急色のツートンカラーに変更されました。

 

旧八幡市駅に停車する特急色1号車(2017年12月)

 

その後、2001年(平成13年)に廃車となっています。2代目(1号・2号)はこれと入れ替わる形で、2001年(平成13年)に投入された車両です。

 

旧八幡市駅に停車する特急色1号車(2017年12月)

 

塗装は先代車両と同じく特急色となっていました。

 

旧八幡市駅に停車する特急色1号車(2017年12月)

 

そして、2019年(令和元年)、この車両石清水八幡宮を意識したデザインへとリニューアルされました。新しい1号車は「あかね」、2号車は「こがね」と命名されています。

 

旧男山山上駅に停車する特急色1号車(2017年12月)

 

鋼索線はいわゆる「つるべ式」(交走式)というタイプであり、ロープの両端に車両を繋げ、交互に山上と山下を往復します。

 

1号車「あかね」の外観(2019年8月)

 

一方の車両が山上にあがると、もう一方の車両が山下におりるという2つの車両の関係について、鋼索線では太陽と月に見立て太陽光を赤、月光を黄とし、それぞれ「あかね」と「こがね」の車両への表現となっています。

 

1号車「あかね」の外観(2019年8月)

2号車「こがね」の外観(2019年8月)

 

座席配置はリニューアル前の車両と同じくすべて固定式クロスシートとなっています。

 

リニューアル前の1号車の座席(2017年12月)

 

一部を除いて座席の大部分は、下山時の眺望をよくするため下向き(ケーブル八幡宮口駅側向き)となっています。

 

新しい1号車「あかね」の座席(2019年8月)

 

シートの色柄は今回のリニューアルにより青から赤・黄へと変更されています。

 

新しい1号車「あかね」の座席(2019年8月)

 

側面の扉はリニューアル前と同じく片側5扉をもちます。片側5扉というのは、初代の車両(1号・2号)以来変更されていません。

 

リニューアル前の1号車の扉(2017年12月)

新しい車両の東側の扉(2019年8月)

新しい車両の西側の扉(2019年8月)

 

神の遣いとされる「阿吽の鳩」と御神紋「流れ左三つ巴」という石清水八幡宮を象徴する2つの要素をモチーフとして、新しい車両のシンボルマークが作られました。

 

1号車「あかね」のシンボルマーク(2019年8月)

 

1号車「あかね」には「吽形」、2号車「こがね」には「阿形」のシンボルマークが採用されています。

 

2号車「こがね」のシンボルマーク(2019年8月)

 

また、車両のリニューアルに合わせて、巻揚装置の制御装置および誘導無線の更新、索条(ロープ)の交換などの設備工事も実施されています。

 

駅構内に掲示されるケーブル設備一覧表(2017年12月)


男山橋梁

ケーブル線には男山橋梁というトレッスル式橋脚をもつ橋が架かりますが、この橋梁の高さは43メートルであり、全国にある鋼索線において最も高い橋梁であるとされています。

 

男山橋梁(2017年12月)

 

その渡橋中の車窓からは木津川、宇治川、桂川の三川と渓谷などの素晴らしい眺望をのぞむことができます。

 

男山橋梁(2017年12月)

上下線の行き違い(2019年8月)

リニューアル前の車両による上下線の行き違い(2017年12月)


ケーブル八幡宮山上駅

ケーブル八幡宮山上駅は、1926年(大正15年)に男山索道の男山駅として開業し、戦時中の廃止を経て1955年(昭和30年)に八幡宮駅として復活しています。1957年(昭和32年)に男山山上駅となり、2019年(令和元年)にケーブル八幡宮山上駅に改称しています。

ケーブル八幡宮山上駅の頭端(2017年12月)

ケーブル(2017年12月)

旧男山山上駅駅舎(2017年12月)

旧男山山上駅駅名標(2017年12月)


旧男山山上駅から展望台と本殿へ

旧男山山上駅を降りると、左ルートは緩やかな道を通って展望台へ、直進ルートはかなり急な階段を通って展望台へ行くことができます。展望台からは裏参道へとつながります。直進ルートの急階段は閉鎖されていました。

 

左ルートを上り駅舎を見る(2017年12月)

展望台へと続く急階段(2017年12月)

 

展望台には、その生誕100年となる1986年(昭和61年)に除幕された谷崎潤一郎の文学碑がひっそりと立ちます。

 

谷崎潤一郎の文学碑(2017年12月)

 

説明文によると、谷崎潤一郎は関東大震災を契機に関西に移住してから、その風土と伝統文化に魅せられたといいます。その後、純日本的、古典的なものを主題とする作品を多数発表しています。その中でも、展望台の碑に記された小説「蘆刈(あしかり)」は「春琴抄」などとともに女性を讃美し、永遠の美を追求した中期名作群の一つとされています。この小説の舞台は大山崎から橋本へ渡る淀川の中州であり、男山と月の描写は小説のもつ夢幻能の効果が考えられているとされます。

 

説明文(2017年12月)

展望台から見た風景(2017年12月)

 

そして、右は西ケーブル参道を通って石清水八幡宮本殿へと続きます。道なりにしばらく歩いて行くと三女神社が見えます。

 

三女神社(2017年12月)