つくばエクスプレス[首都圏新都市鉄道]

投稿者: | 2021-06-26

北千住駅から出発するつくばエクスプレス「秋葉原行き」(2022年3月)

首都圏新都市鉄道は、建設以前には「常磐新線」とよばれたつくばエクスプレスを運行する鉄道会社です。正式路線名は建設以前の名称である「常磐新線」となっていますが、ホームや車内などの列車案内上ではまったく使用されておらず、「つくばエクスプレス」と呼称されています。

TX-3000系(2020年3月)

1991年(平成3年)に首都圏新都市鉄道が設立され、2005年(平成17年)に秋葉原~つくば間58.3キロを開業しています。全区間の内訳を見ると、東京都13.2キロ(千代田区・台東区・荒川区・足立区)、埼玉県7.4キロ(八潮市・三郷市)、千葉県13.5キロ(流山市・柏市)、茨城県24.2キロ(守谷市・つくばみらい市・つくば市)となっています。

霞ヶ浦より遠くに見える筑波山(2022年2月)

全区間において時速130キロの高速運転を実現し、最速列車はこれを45分で結びます。東京都心とつくばを直線でつないでいる他、全区間が高架線または地下鉄線(全区間58.3キロのうち地下区間は16.3キロ)となっていて踏切がないことが大きな理由となっています。

秋葉原駅に停車する区間快速「つくば行き」(2019年4月)

つくばエクスプレスの始点となる秋葉原駅ホームは地下深い場所にあります。たとえば、JR線からつくばエクスプレスに乗る場合、何度となくエスカレーターの乗り換えを余儀なくされ、本当にホームに着くのだろうかと感じるくらい地下深くへともぐっていかなければなりません。

秋葉原駅駅名標(2019年4月)

鉄道のレール幅のことを軌間とよんでいますが、日本の場合にはその幅1,435ミリの標準軌と1,067ミリの狭軌が主流となっています。つくばエクスプレスの場合には狭軌を採用しており、JRの在来線や地下鉄の多くの路線、首都圏の多くの私鉄と同じ軌間となっています。標準軌を採用しているのは、新幹線、東京メトロ銀座線、東京メトロ丸ノ内線、都営大江戸線、都営浅草線、京浜急行電鉄、京成電鉄などとなっています。

TX&関鉄自由帳(非売品)

1923年(大正12年)に東京の有力者たちのグループが東京と茨城を結ぶ鉄道敷設の許可を申請しますが、翌年に却下されてしまいます。しかし、その後再度申請をして1928年(昭和3年)に日暮里~筑波山間を結ぶ鉄道敷設免許を取得しました。

母子島遊水地から見る筑波山(2022年1月)

これを受けて筑波高速度電気鉄道(筑波高速)を設立し、1929年(昭和4年)には上野~日暮里間の鉄道敷設免許も取得しました。この路線は現在のつくばエクスプレスのルートと類似していますが、上野、日暮里、八幡、彦成、早稲田、流山、田中、守谷、小張、谷田部、葛城、大穂、新北条、筑波山14駅の設置を予定しており、1時間30分でこれを結び、1日24往復の運行を想定していたといいます。

つくば駅の地上(2018年8月)

さらには、梅島(東京都足立区)付近から分岐して松戸へと延びる支線も計画しており、1929年(昭和4年)に松戸支線の鉄道敷設免許も取得しています。

東京スカイツリーライン梅島駅(2022年6月)

当時の鉄道省の調査においてもこうした路線の敷設における効果が高く評価されていました。しかしながら、新設路線の近くを走る筑波鉄道および流山鉄道(現在の流鉄)への影響が懸念されるということから、その免許取得には両社から合併や買収が求められた際には拒否することができないとの条件が付されました。

流鉄流山線の車両(2020年8月)

当時の筑波高速度電気鉄道(筑波高速)は全線を電化して高速列車を運行する予定にしていましたが、地磁気観測所(茨城県石岡市)の存在が鉄道敷設にあたっての障害となります。令和時代を迎えた現在においても、石岡市の気象庁地磁気観測所は地球磁気・地球電気に関する観測を実施しています。直流電気を流すと磁場が発生するため、磁気を測定する場所の付近ではその観測に悪影響を及ぼします。

つくば駅に停車するつくばエクスプレスの車両(2019年10月)

そこで、実験上の制約により人為的な電流を流すことを避けなければならないとの立場から、当時の逓信省は電気事業経営に関する申請を行った筑波高速度電気鉄道(筑波高速)に対して、谷田部以北での免許を認めませんでした。これにより、流山筑波山間の路線敷設が暗礁に乗り上げてしまうことになります。

つくば駅に停車する「秋葉原行き」(2018年8月)

この問題については、筑波高速度電気鉄道(筑波高速)のみの問題ではなく、土浦~谷田部間の路線敷設を予定していた常南電気鉄道や、水戸~石岡間の路線敷設を予定していた水戸電気鉄道についても大きくのしかかってくることになります。

車両に描かれるTXのシンボルマーク(2018年8月)

結果的に問題の解決には至らず、筑波高速度電気鉄道(筑波高速)は京成電気軌道(現在の京成電鉄)に吸収されることになります。現在の京成電鉄のターミナル駅となる京成上野駅は筑波高速度電気鉄道(筑波高速)の遺産ともいえます。後に京成電鉄はこの免許を使用して1931年(昭和6年)に青砥~日暮里間、1933年(昭和8年)に日暮里~上野間を開通させています。一方、茨城方面への免許は失効しています。

京成日暮里駅ホーム(2022年5月)

後に国鉄は常磐線の電化工事に着手し、1961年(昭和36年)から上野~勝田間での電車運転を実現しています。先の地磁気観測所の問題を解決するために、取手以北については交流電化としています。

我孫子駅に停車する常磐線の車両(2021年6月)

直流電流を流すと磁場が発生してその観測に悪影響を及ぼすということから、国鉄はこのような対策をとったということになります。国鉄は取手以北を交流電化としたため、都心から取手以北へ行くためには交直流電車が必要となります。しかしながら、交直流電車は高価であることから、国鉄にとっては常磐線による輸送力増強が結果的に遅れてしまうことになりました。

交直流電車TX-3000系(2021年10月)

この地磁気観測所の問題はつくばエクスプレスの建設にも持ち越されることになります。つくばエクスプレスにおいても、みらい平駅(茨城県つくばみらい市)以南は直流電化(直流1500ボルト)、みらい平駅(茨城県つくばみらい市)以北は交流電化(交流20キロボルト)となっています。

新型車両TX-3000系ロングシートの透明仕切板(2020年3月)

実際に、つくばエクスプレスに乗車して守谷~みらい平間を走行しているとき、車内の路線図の表示灯が一瞬停止してしまう場所があります。この区間に交流・直流の切り替えのデッドセクションが置かれているため、このような現象が起こることになります。ただ、最近の車両はデッドセクションを通過しても、あまりそうしたことを感じないことがほとんどです。

TX-2000系セミクロスシート(2017年8月)

つくばエクスプレスでは合理化と省力化によりワンマン運転を実現していますが、このワンマン運転に加えて、自動列車制御装置(ATC)・自動列車運転装置(ATO)を備える高性能車両および最先端の基盤整備により高速運転を達成することができているといえます。

つくば駅に停車するつくばエクスプレスの車両(2019年10月)

自動列車制御装置(ATC)は、列車の衝突や脱線事故を未然に防いで運転を安全にサポートする装置のことであり、線路の曲線や勾配および先行列車との距離などの情報を常に受信し、列車が定められた速度を超過した場合には自動的にブレーキが作動することにより、安全を保ちます。

新型車両TX-3000系の車内(2020年3月)

自動列車運転装置(ATO)は、乗務員が乗降客の確認を実施した後、ドア操作により車両ドアと可動式ホーム柵を閉じると、乗務員は運転席の出発ボタンを操作します。これにより、次の停車駅まで定められた運転パターンにしたがって、列車の発進、加速、減速、停止について自動運転を行います。複数の列車種別をもち、時速130キロの高速運転を行う線区でATO運転を採用したのは、つくばエクスプレスが日本で初めてということになります。

つくばエクスプレス守谷止最終電車(2016年12月)

2005年(平成17年)の開業当初より運行する車両にはTX-1000系とTX-2000系があります。TX-1000系直流電車となっており、先の地磁気観測所の問題があるために秋葉原~守谷間の走行に限定されます。車両前面のガラスはV字形をしていて、高速走行を実現する列車の雰囲気を醸し出しています。車両番号を表す色は青色となっています。

TX-1000系(2021年6月)

TX-2000系秋葉原つくば全区間を走行できる交直流電車となっています。外観はほとんどTX-1000系と同じですが、パンタグラフが1両あたりTX-1000系は3か所、TX-2000系は4か所となっています。また、車両番号を表す色は赤色となっています。

TX-2000系(2018年8月)

TX-2000系のうち2008年(平成20年)以降に製造された車両は車両前面にも赤い帯が付されています。TX-2000系秋葉原つくば間の長距離運転となるため、中間車両にはセミクロスシートが設けられている車両があります。

TX-2000系セミクロスシート(2017年8月)

また、TX-2000系にはクロスシート以外にもロングシートの車両も連結されています。車両の長手方向に配置された座席をロングシートといい、この座席の場合は車両の左右側窓を背にして座ることになります。都市部の通勤車両や地下鉄の車両、車幅の狭い路面電車などに採用されています。

TX-2000系ロングシート(2018年8月)

TX-3000系は2020年(令和2年)に登場した交直流電車であり、これまでの車両で用いられてた赤色と青色が配色されています。

TX-3000系(2020年3月)

TX-1000系およびTX-2000系よりも車両前面のガラスの傾斜を急にし、ライトの形も細長形へと変化させており、より高速運転をする実現する車両のイメージを醸し出しています。

TX-3000系の優先席付近の様子(2020年3月)